2026年10月08日五線譜とポリフォニー 奈良漬づくりの中に浮かぶ景色

奈良漬づくりに向き合う中で、以前から、音楽に重なるイメージが私の中にありました。
先の「神のサイコロと平均律」に続いて浮かんできたのは、五線譜の上に、音符と微生物が重なる景色です。
説明するために考えたというより、ふと感じた。
私には、その言い方がいちばん近く感じられます。
五線譜は、音を記すための場所です。
そこに音符が置かれ、演奏されることで、音楽が響き始めます。
奈良漬づくりでは、原料の状態を確かめ、漬ける条件を整えます。
数値を測り、香りや色、味を確かめ、変化に応じて手を加える。
その仕事が、私には五線譜を整えることのように思えるのです。
そして、その上に置かれる音符を思わせるのが、目に見えない微生物の働きです。
奈良先端科学技術大学院大学との共同研究では、奈良漬の製造過程で乳酸菌が働き、乳酸発酵が進むことが確かめられました。
顕微鏡に映る乳酸菌の姿に、私は五線譜の上の音符を重ねました。
もちろん、味を育てるのは、それだけではありません。
野菜や酒粕の持ち味、漬け替えの積み重ね、そして時間。
それぞれが関わり合いながら、奈良漬の味は変わっていきます。
複数の旋律が重なりながら進む音楽を、ポリフォニーと呼びます。
奈良漬づくりにも、私はそれに似た響きを感じています。
自然に任せる時間と、人が手をかける時間。
変化を見守ることと、必要なところを整えること。
日々繰り返しているその仕事の中に、ふと、五線譜と音符の景色が現れます。
今日も樽の前で、その小さな変化に耳を澄ませています。



