2026年10月06日神のサイコロを、平均律が整える。奈良漬において、奈良屋本店が感じること。

アインシュタインの
「神はサイコロを振らない」
という言葉。
私は物理学を学んだ人間ではありません。
化学についても、専門的に学んだことはありません。
ですから、この言葉を学問として論じようというつもりもありません。
ただ、長年奈良漬を作っていると、時々この言葉を思い出すことがあります。
奈良屋本店では、製造の途中で塩分、Brix、pH、酸度などを測り、日々その変化を確認しています。
多くの場合、数字はそれまでの経過からある程度予想できます。
けれども、ときどき、
「なぜ、この数字になるのだろう」
と思う値が現れます。
そのとき、まず測定をやり直します。
それでも同じ数字が出れば、今度はそれまでの製造履歴を遡ります。
どのように下漬けをしたのか。
どのように漬け替えてきたのか。
これまでの数字はどう動いていたのか。
そして、今起きているわずかな「ずれ」を、どう戻していくかを考えます。
奈良屋本店が大切にしているのは、
伝統と科学の融合です。
数字だけですべてが分かるわけではありません。
かといって、経験や勘だけに頼るわけでもありません。
測って、考える。
過去をたどって、もう一度考える。
その繰り返しです。
私は音楽が非常に好きです。
音楽には「純正律」と「平均律」という考え方があります。
純正律は、音と音との純粋な響きを大切にします。
一方、平均律は、一つ一つの音程にわずかな調整を加えながら、全体として多くの調を扱えるようにした音律です。
私には、この考え方が奈良漬づくりとどこか重なって感じられます。
完全に計算どおりに進むことだけを求めるのではなく、
現れた小さな「ずれ」を見つけ、
その理由を考え、
全体を見ながら整えていく。
もちろん、奈良漬が物理学や音楽と同じだと言いたいわけではありません。
アインシュタインの「神はサイコロを振らない」という言葉は、量子論の確率的な性格に対する彼の違和感を象徴する言葉として知られています。アメリカ物理学会
その言葉を知ったとき、そして平均律という音楽の考え方を知ったとき、長年奈良漬を作る中で感じてきたことと、私の中でどこかが重なりました。
神のサイコロを、平均律が整える。
物理学をほとんど学んだことのない、
一人の漬物屋の親父が、
奈良漬を作りながら感じたことです。


