2026年08月22日発酵の対位法 ― 奈良漬の味は、一つの旋律ではない

奈良漬の味は、一つの旋律ではない。
-発酵の対位法 -
音楽には「和声」と「対位法」という考え方があります。
和声は、ある瞬間に同時に響く音同士の関係――いわば音楽の「縦」を見つめるもの。
一方、対位法は、それぞれ独立した旋律が時間の中を「横」へ進み、そのいくつもの流れが重なり合いながら、一つの音楽をつくっていく考え方です。
一つの旋律が主役で、ほかが単なる伴奏なのではありません。
それぞれが自分の流れを持ち、時に近づき、時に離れ、互いに響き合いながら進んでいく。
そのことを考えた時、ふと奈良漬づくりに似ているのではないかと思いました。
野菜。
酒粕。
アルコール。
微生物。
発酵。
漬け替え。
そして時間。
奈良漬の味は、ある一瞬の組み合わせだけで生まれるものではありません。
それぞれが長い時間の中で変化し続け、
互いに影響し合い、いくつもの流れが重なった先に、一つの味が生まれていきます。
奈良先端科学技術大学院大学との共同研究では、奈良漬の製造過程で乳酸菌が増加し、乳酸発酵が行われていることなども明らかになってきました。
目には見えない微生物もまた、奈良漬をつくる一つの「声部」なのかもしれません。
私は昔から、「不思議」が大好きです。
目に見えているものの奥で、
何が起きているのか。
なぜ、そうなるのか。
音楽に休符があるように、
奈良漬づくりにも、何もしていないように見える時間があります。
けれど、その時間も決して「何も起きていない時間」ではありません。
目には見えなくても、変化は静かに続いています。
いくつもの異なるものが、それぞれの時間を生き、重なり合いながら、
最後には一つになる。
奈良漬の味は、一つの和音というより、
いくつもの旋律が流れ続ける音楽に近い。
奈良県唯一のJAS認証奈良漬メーカーとして、受け継いできたものを大切にしながら、
その奥にある「なぜ」を、これからも見つめていきたいと思います。
そこに私は、
「発酵の対位法」のような美しさを感じています。


