2026年08月04日「白い酒粕が、奈良漬に使える酒粕になるまで」
白い酒粕は、まだ奈良漬には使えません。
冬、奈良の酒蔵・春鹿酒造様で日本酒が搾られると、真っ白な酒粕が生まれます。
搾りたての酒粕は、雪のように白く、華やかでフルーティーな香りをまとっています。
その香りを生かしたいという思いもありますが、奈良屋本店では、搾りたての酒粕をすぐに奈良漬へ使うことはありません。
1月、酒粕を樽へ詰めて空気を抜く「踏み込み」という作業を行い、その後、奈良の四季の温度変化に委ねながら、数か月間じっくりと寝かせます。
若い酒粕をそのまま使うと、酒粕に残る酵素の働きによって野菜の繊維が崩れ、奈良漬が軟らかく、ボロボロになってしまうためです。
春から夏へと季節が進むにつれ、酒粕は白色から茶褐色へと変化します。
搾りたてのフルーティーな香りは次第に穏やかになりますが、熟成とともに奈良漬にふさわしい、奥行きのある風味とうま味が育っていきます。
そして、土用の頃まで熟成した酒粕は「土用粕」と呼ばれ、ようやく奈良漬に使用できる状態になります。
昔の職人は、酒粕の色や香りを頼りに、使用できる時期を見極めてきました。
奈良屋本店では約25年前から、熟成とともに変化する、ある測定値にも着目しています。
これは一般的な基準ではありませんが、約30年間、実際の製造現場で確認を重ね、奈良屋本店独自の熟成管理の目安として使い続けてきました。
色や香りという職人の感覚と、長年蓄積してきた測定データ。
その両方を確かめ、基準に達した酒粕だけを奈良漬に使用しています。
ただし、熟成が完了した後も常温のまま置いておくと、酒粕の色はさらに濃く、黒く変化していきます。
奈良屋本店では、酒粕の色も品質を構成する大切な要素の一つと考えています。
そのため毎年この時期になると、約40トンから50トンの酒粕を、20度以下に温度管理した保管室へ移します。
効率だけを考えれば、熟成を早める方法もあるのかもしれません。
それでも奈良屋本店は、何かを加えて時間を縮めるのではなく、奈良の四季がつくる自然な温度の中で、酒粕がゆっくりと変化する時間を大切にしています。
奈良の酒蔵で生まれた酒粕を、奈良の風土の中で育て、奈良漬へとつなぐ。
待つことも、見極めることも、温度を管理することも、すべて奈良屋本店の奈良漬づくりです。


