2026年07月10日鰻の丑の日に、なぜ奈良漬?

土用の丑の日といえば、鰻。
そして、その傍らに奈良漬が添えられている光景を思い浮かべる方も多いのではないでしょうか。
この組み合わせについては、「平賀源内が考案した」という話が広く知られています。
しかし、奈良漬を専門につくる者として、現在確認できる史料や公開資料をたどってみると、広く語られている物語と、歴史的に確認できる事実との間には、少し距離があるように思われます。
文政5年(1822年)の『明和誌』には、土用の丑の日に鰻を食べる風習が安永・天明の頃から始まったという趣旨の記述があります。
しかし、そこに平賀源内の名前はなく、鰻屋に張り紙を勧めたという逸話も記されていません。
また、平賀源内自身の著作『里のをだまき評』にも、土用の丑の日や奈良漬を勧める記述は、現在確認できる範囲では見当たりません。
もちろん、だからといって平賀源内が絶対に関与していなかったと断定することもできません。
現時点では、
「広く知られている説ではあるものの、史実として確認されたものではない」
と考えるのが、最も慎重で誠実なのではないかと思います。
また、「う」のつく食べ物を食べる風習から奈良漬が結びついたという説明も見られますが、それを裏付ける史料は確認されておらず、可能性の一つとして考えられている段階です。
現在では、奈良漬に含まれる成分から鰻との相性を説明する考え方もあります。
しかし、それは現代の食品科学から見た一つの解釈であり、当時の人々がその知識をもとに組み合わせたことを示すものではありません。
それでも今、土用の丑の日に鰻と奈良漬を一緒に味わう人がいます。
由来が完全には分からなくても、人々が長い年月をかけて選び続けてきた組み合わせには、それだけの価値があります。
文化とは、起源が明確だから残るのではなく、人々が「これがいい」と選び続けることで受け継がれていくものなのかもしれません。
奈良屋本店は、史実として確認できないことを事実であるかのように語ることは控えたいと考えています。
その一方で、鰻と奈良漬がともに食卓に並ぶ、この日本の食文化を、これからも大切に受け継いでいきたいと思っています。
今年も、鰻の傍らに奈良漬を。


