2026年06月12日ブリックス計が映すもの ― 奈良漬づくりと、数値の奥を読む技術

これは、ブリックス計という器具です。一般には、糖度を測る道具として知られています。
三十歳の頃のことです。父から、奈良漬づくりにおける、ある重要な判断を求められました。けれど私には、その見極めがつかなかったのです。父に厳しく叱責されました。
自分の感性は、鈍いのかもしれない。感性で分からないのなら、数字で捉えるしかない。そう思い、私はあらゆる方法を試しました。
そうして、一つの手がかりにたどり着いたのです。そこから、私はこの計器と本気で向き合うようになりました。
奈良漬は、酒粕に幾度も漬け替えながら、長い時間をかけて熟成させる発酵食品です。その製造の過程では、ブリックス計の数値が、糖だけでなく、その中に溶け込んださまざまな成分の状態を、総体として映し出しているように思えました。漬け込みが進むにつれて、その姿は刻々と変わっていきます。
とりわけ私を驚かせたのは、漬け込みのある段階と、別の段階とで、数値の動き方に逆転現象が起こることでした。同じ数値でありながら、その意味が、段階によって正反対になる。
大学の先生や専門家の方からすれば、これはごく当たり前のことなのかもしれません。けれど、私のような文系の一介の漬物屋の主人にとっては、驚くべき発見でした。
大切なのは、計測することではありません。その数値が、今、何を物語っているのかを理解すること。同じ数字でも、漬け込みのどの段階にあるかで、まったく違うことを意味する。それを読み解くのが、長年の経験なのだと思います。
奈良屋本店は奈良県で唯一のJAS認証を受けた奈良漬製造元として、また奈良県SDGsアドバンス認証企業として、種の調達から奈良産野菜の栽培、塩漬け、酒粕漬け、そしてパッケージングまで、奈良漬づくりのすべての工程を奈良の地で行うべく努力を続けています。みりん粕は一切使わず、春鹿の蔵元・今西清兵衛商店の酒粕を用い、添加物や合成甘味料は使いません。乳酸菌が生きる、無添加の奈良漬です。


