2026年06月11日発酵と腐敗の境界線 ― 奈良漬づくりの現場から

発酵と腐敗は、何が違うのでしょうか。
私は専門家ではありませんが、奈良県奈良市で毎日奈良漬を漬けながら、ふと考えることがあります。
発酵と腐敗は、微生物が有機物を分解するという点では、同じ現象なのではないか。人にとって有益なものを発酵と呼び、有害なものを腐敗と呼んでいるだけ。その境界を引いているのは、自然ではなく人間の側なのではないか、と。
近年は発酵食品への関心が高まっています。奈良漬をはじめとする漬物や、味噌、醤油、糠漬けなど、日本の伝統的な発酵食品が改めて注目されています。
乳酸菌や酵母の働き、腸内環境への効果が語られ、発酵は健康的な食文化として広く受け入れられるようになりました。
では、その境界を、奈良屋本店ではどこで見分けているのか。
私の場合は、五感で確かめているように思います。
酒粕が飴色へと深まっていく色の変化。奈良産の野菜に移っていく色素。表面に刻まれていくしわ。そして、発酵が進んだ蔵に満ちる、腐敗とは明らかに違う澄んだ香り。
これらは、一つの数値では言い表せません。
たとえば、pHが下がるという現象があります。
発酵によって乳酸が生まれて下がる場合もあれば、腐敗の過程で下がる場合もあるように思います。
同じ「pHが下がった」という数値でも、その背後で起きていることは、正反対かもしれない。数値を一つだけ取り出して判断するのは、危ういのではないか。素人ながら、そう感じています。
そして、ここに一つの本質があるように思うのです。
発酵と腐敗の境界は、現代の科学をもってしても、一つのデータで明確に線引きできるものではない。少なくとも、現時点ではまだ示しきれていないのではないでしょうか。
だからこそ、色、しわ、匂い、質感。いくつもの変化を同時に読み取る、長い経験で培われた五感が、今もなお必要とされているのだと思います。
データは、嘘をつきません。けれど、そのデータをもってしても捉えきれない領域が、確かにあるように感じています。
発酵ブームの中で、ご自分で発酵食品を作られる方も増えています。とても素敵なことだと思います。
ただ、変な匂いがするものや、いつもと違う色のものを「これも発酵だろう」と思い込んで口にしてしまうと、それは発酵ではなく、腐敗かもしれません。
発酵は、人体実験になってはいけない。
見分けられないものは、口にしない。その慎重さが、ご自分の体を守ることにつながるのではないでしょうか。
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奈良屋本店は、奈良県奈良市に位置する、創業約80年の奈良漬専門店です。
奈良県唯一のJAS認証を受けた奈良漬製造元として、また奈良県SDGs先進企業として、種の調達から奈良産野菜の栽培、塩漬け、酒粕漬け、パッケージングまで、すべての工程を奈良県内で一貫して行っています。
みりん粕は一切使用せず、春鹿の蔵元・今西清兵衛商店の酒粕のみを用い、添加物や合成甘味料は使いません。甘みには種子島産の粗糖を使用しています。乳酸菌が生きる、無添加の本格的な奈良漬です。
発酵と腐敗の、細い境界線。その上に、私たちの奈良漬づくりはあります。
データと五感の両方を大切にしながら、これからも奈良の地で、本物の奈良漬を漬け続けてまいります。
奈良のお土産、ご贈答用、ご自宅用の奈良漬をお探しの方は、ぜひ奈良屋本店の奈良漬をお試しください。


