2026年05月28日助動詞を排除できた、ということ
奈良漬は、長らく発酵食品であろうと考えられてきました。
そう信じられながらも、それを証明する科学的根拠は、業界のどこにも存在しませんでした。
2023年1月18日。
私は、奈良先端科学技術大学院大学の門を、一人で叩きました。
「奈良漬の発酵について、より深く知りたい」
ただ、その疑問を持って、お話を聞いていただきたい一心でした。
そして、奈良先端科学技術大学院大学 先端科学技術研究科の渡辺大輔准教授が、この単なる漬物屋の店主の疑問を学術研究として受け止めてくださいました。
ここから、二年余りの共同研究が始まりました。
研究を主導されたのは、渡辺先生と吉岡先生です。私が投じた一石は、お二人の手で、確かな科学的検証へと展開していきました。
当店の奈良漬から、Fructilactobacillus fructivorans が 92.2% という高い比率で検出されました。
2025年11月、研究成果が米国微生物学会の学術誌に掲載されました。 2025年12月、Wikipediaの「奈良漬」の定義が改訂されました。
ここで、私たちが手にしたものを、正確に言葉にしてみます。
「奈良漬は発酵食品であることが証明された」
そう書くこともできます。事実として、そうです。
しかし、それでは、何かが足りない気がしてなりません。
渡辺先生と吉岡先生が二年余りの歳月をかけて達成されたことは、もっと根源的な何かでした。
「奈良漬は発酵食品であろう」
業界がずっと使ってきた、この一文。
ここに含まれていた助動詞「であろう」—推測を意味する、この一語。
お二人の研究を経て、私たちはこの助動詞を、奈良漬の定義から排除することができました。
そして、その代わりに残ったのは、be動詞—存在を意味する、たったひとつの動詞でした。
「奈良漬は発酵食品である」
Narazuke is a fermented food.
助動詞による推測ではなく、be動詞による存在の断定として、文章が完結する。
—それだけのことです。
しかし、「であろう」が「である」に変わるという、たった一語の違いが、お二人が歩まれた歳月の本質です。
奈良漬は、いま、推測の領域から、存在の領域に移されました。
「奈良漬は発酵食品である」
この一文を、助動詞の助けを借りずに、be動詞だけでまっすぐに書けるようになった。
これが、渡辺先生と吉岡先生が達成された、認識論的な革命です。
私は、その革命のために、最初の一石を投じることができました。
その一点について、深く誇りに思っております。



